インディーハッカー道
Pieter Levelsに学ぶ、海外インディーハッカーの思考法
思考・哲学

Pieter Levelsに学ぶ、海外インディーハッカーの思考法

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平城寿
平城寿
@SOHO創業者 / インディーハッカー

この記事のポイント

  • Nomad ListやRemoteOKの創設者Pieter Levelsの思考法を分析
  • 海外インディーハッカーと日本人エンジニアの違い
  • そしてそこから学べることを解説します

「1人で年間数億円稼ぐエンジニアがいる」

こう言うと、多くの人は信じません。

ところが、Pieter Levels(ピーター・レベルズ)という1人のオランダ人エンジニアは、それを現実にしています

NomadList、RemoteOK、PhotoAI。彼が1人で開発・運営しているプロダクト群は、合計で年間数百万ドル(数億円)の売上を生み出しています。

従業員ゼロ。オフィスなし。世界中を旅しながら開発する。

実は、この生き方は私自身が@SOHOで20年以上実践してきたものと、驚くほど共通点が多いのです。

この記事では、Pieter Levelsの思考法を分析し、日本人エンジニアが彼から何を学べるかを考えます。

Pieter Levelsとは何者か

Pieter Levelsは、1987年生まれのオランダ人エンジニアです。

彼を世界的に有名にしたのは、2014年に始めた『12 Startups in 12 Months(12ヶ月で12のスタートアップ)』チャレンジです。

毎月1つ、新しいプロダクトをリリースする。12ヶ月で12個。

結果として、12個のうちほとんどは失敗しました。ところが、その中から生まれたNomadListとRemoteOKが大ヒットし、彼の人生を一変させました。

NomadListは、デジタルノマドが世界の都市を「住みやすさ」「インターネット速度」「物価」「気候」などで比較できるサイトです。

RemoteOKは、リモートワークの求人に特化した求人サイトです。

どちらも、彼が1人で開発・運営しています。

思考法1:「12打席で1本ヒットが出ればいい」

Pieterの最も重要な思考法は、「多くの打席に立つ」ということです。

12個のプロダクトを作って、成功したのはわずか2個。成功率17%です。

多くの日本人エンジニアは、1つのプロダクトに全力を注ぎ、完璧に仕上げてからリリースしようとします。

そして、その1つが失敗すると心が折れて、二度とチャレンジしなくなる。

Pieterのアプローチはまったく逆です。

「ほとんどは失敗する。それは前提。だから数を打つ」

この割り切りが、日本人エンジニアに最も欠けている思考法だと私は感じています。

私自身も@SOHOの前に、2つのサービスを作って失敗しています。その失敗があったからこそ、@SOHOでの判断が的確になったのです。

思考法2:「テクノロジーは手段、ユーザーの問題が全て」

Pieterの技術スタックを知ると、多くのエンジニアが驚きます。

彼はフレームワークをほとんど使いません。 素のPHP、jQuery、SQLiteで動いているプロダクトが多いのです。

「え、2024年にjQuery?」

そう思った方、ここにPieterの本質的な思考法があります。

「ユーザーは技術スタックを気にしない。問題を解決してくれるかどうかだけを気にする」

日本のエンジニアコミュニティでは、最新のフレームワークやアーキテクチャに関する議論が盛んです。Next.jsかRemixか、GraphQLかREST APIか。

ところが、Pieterはそういった議論に一切参加しません。

「動けばいい。ユーザーの問題を解決すればいい。それだけ」

この潔さは、エンジニアとしての私にも大きな気づきを与えてくれました。

もちろん、技術的な負債は溜まります。でも、売上が立ってから負債を返済すればいい。売上が立つ前に完璧なアーキテクチャを設計しても、ユーザーがいなければ意味がないのです。

思考法3:「公開で作る(Build in Public)」

Pieterの特徴的な行動のひとつが、開発プロセスを全て公開することです。

X(旧Twitter)で、売上の数字をリアルタイムに共有する。新機能のアイデアを公開でブレストする。バグが出たら、その修正過程もツイートする。

これは『Build in Public(パブリックに作る)』と呼ばれる手法です。

この手法のメリットは3つあります。

メリット1:ユーザーとのフィードバックループが超速になる

「こんな機能を考えているけど、どう思う?」とツイートすれば、数時間で数百のフィードバックが返ってきます。

メリット2:透明性が信頼を生む

売上を隠さず公開することで、「この人は嘘をつかない」という信頼が蓄積されます。

メリット3:マーケティングコストがゼロになる

開発プロセスそのものがコンテンツになるので、別途マーケティングに時間を割く必要がありません。

私も@SOHOの運営をメルマガで発信してきましたが、Pieterのようにリアルタイムで透明性高く公開するという手法は、日本人エンジニアがもっと取り入れるべきだと感じます。

思考法4:「世界を市場にする」

Pieterのプロダクトは、最初からグローバル市場をターゲットにしています。

NomadListのユーザーは世界中にいます。RemoteOKに掲載される求人も、世界中の企業からのものです。

ここに、日本人エンジニアとの決定的な違いがあります。

多くの日本人エンジニアは、最初から日本市場だけをターゲットにします。UIは日本語のみ。ドキュメントも日本語のみ。

結果として、1.2億人の市場でしか勝負できないのです。

Pieterは英語でプロダクトを作り、英語で発信する。それだけで、数十億人の市場にアクセスできています。

私が@SOHOを立ち上げたときも日本市場をターゲットにしました。日本語のプラットフォームだからこそ30万人の会員を獲得できましたが、もし最初から英語で作っていたら、300万人だったかもしれません。。

これは今でも、私にとっての反省点です。

思考法5:「ライフスタイルをデザインする」

Pieterの活動を見ていると、ビジネスはライフスタイルの手段であって、目的ではないということが伝わってきます。

彼は世界中を旅しながら開発しています。バリ、リスボン、バンコク、東京。好きな場所で、好きなときに働く。

「それは稼いでるから言えることだろう」と思うかもしれません。

ところが、Pieterがこのライフスタイルを始めたのは、売上がほぼゼロの時期からです。最初に数百万ドル稼いでから旅を始めたのではなく、旅をしながらプロダクトを作り、結果として稼げるようになった。

順序が逆なのです。

私も同じ経験をしています。@SOHOを立ち上げた当初から海外ノマドをしていました。収入が安定する前から、自分が望むライフスタイルを先に実現したのです。

「稼いでから自由になる」ではなく、「自由になってから稼ぐ」。

この発想の転換が、インディーハッカーの核心にあります。

Pieterから学ぶ日本人エンジニアへの処方箋

Pieterの思考法を、日本人エンジニアが実践するための具体的なアクションをまとめます。

アクション1:今年中に3つのプロダクトをリリースする

1つに全力を注ぐのではなく、3つ作って市場の反応を見る。失敗を前提に、打席数を増やすのです。

アクション2:技術選定の時間を減らし、リリースの時間を増やす

「最適な技術スタック」を1週間悩むくらいなら、使い慣れた技術で1週間で作ってリリースしてください。

アクション3:開発プロセスを公開する

Xやブログで、開発の過程をリアルタイムに共有する。最初は恥ずかしいかもしれませんが、続ければ必ずコミュニティができます。

アクション4:英語で発信する

完璧な英語でなくていい。GitHubのREADME、プロダクトのランディングページ、Xでの投稿。まずはどれか1つを英語にしてみてください。

アクション5:ライフスタイルを先にデザインする

「どう生きたいか」を先に決めて、それを実現するためのビジネスモデルを考える。順序を逆にしないこと。

「日本版Pieter Levels」は生まれるか

Pieterが成し遂げたことは、技術的には特別なことではありません

PHPとjQueryで作ったサイトが、年間数億円を稼いでいる。技術力だけで言えば、同等以上の日本人エンジニアは数万人います。

違いは、思考法と行動パターンだけです。

完璧主義を捨てる。数を打つ。公開で作る。世界を市場にする。ライフスタイルを先にデザインする。

これらの思考法を取り入れた日本人エンジニアが、次々と世界で活躍する未来を、私は心から期待しています。

そして私自身も、@SOHOの次の20年で、グローバル市場への挑戦を本格化させていくつもりです。

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#インディーハッカー#Pieter Levels#海外#個人開発#ノマド
平城寿
平城寿
インディーハッカー。2004年に@SOHOを創業し、20年間1人で運営。
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