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愛用していたブラウザが消えたので、自分で作ることにしました
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愛用していたブラウザが消えたので、自分で作ることにしました

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平城寿
平城 寿(ひらじょう ひさし)
@SOHO創業者 / インディーハッカー

この記事のポイント

  • 6,700円で買った永久ライセンスのブラウザが1年4か月で終了しました
  • 代替を10本以上試して納得できるものが無かったので
  • 個人開発のネタは市場調査ではなく自分の不便から生まれるという話です

個人開発の始め方を聞かれると、たいてい『市場調査』という答えが返ってきます。

どんなニーズがあるか調べて、競合を分析して、勝てそうな領域を探す。教科書にはそう書いてあります。

ところが私がいま売っているMacアプリは、市場調査を1秒もしていません。

自分が使っていたソフトが消えたので、代わりを自分で作った。 始まりはそれだけです。

この記事から、1本のアプリを作って世に出すまでの記録を連載として書いていきます。1本目は、そもそもなぜ作ることになったのかという話です。

6,700円で買った「永久ライセンス」

2024年4月2日、私はAppSumoで『Sidekick』というブラウザを買いました。

金額は$44.10。当時のレートで約6,700円です。

AppSumoは買い切りの永久ライセンス(ライフタイムディール)を安く売るサイトで、私は昔からよく使っています。月額課金を積み上げたくないので、買い切りで済むものは買い切りで持っておきたいのです。

Sidekickは『アプリ集約ブラウザ』と呼ばれる種類のソフトでした。

Gmail、カレンダー、Todoist、Slack。毎日開くWebサービスを左側のサイドバーにアプリとして固定しておき、普通のタブとは別の場所に常駐させられます。

さらに『ワークスペース』という機能があり、仕事用・個人用・案件別に、開くアプリのセットとログインアカウントを丸ごと切り替えられました。

私はGmailのアカウントを複数持っています。@SOHOの運営用、講座の受講生対応用、個人用。。

これを1つのブラウザで同時に開いたまま行き来できるのは、想像以上に快適でした。切り替えないというのは、それだけで作業の質が変わります。

買う前から、終わりは決まっていた

2025年の夏、Sidekickが終了するという話を知りました。

買い切りで買ったものが終わるのは納得がいかなかったので、私はAppSumoに返金を請求しました。2025年8月1日のことです。

返ってきた答えが、なかなかのものでした。

Sidekick Browser originally announced their decision to sunset the tool back in 2024.

Sidekickは2024年の時点で、すでに終了を決めて発表していた。 サポートはそう書いてきました。

私が買ったのは2024年4月2日です。。

つまり私は、作り手がもう畳むと決めていた製品の『永久ライセンス』を買っていたことになります。

AppSumoは全額をクレジットで返金してくれました。この対応自体は誠実だったと思います。

ただ、返ってきたのはお金だけです。1年4か月かけて自分の仕事に組み込んだ作業環境は、返ってきません。

6,700円が惜しかったのではありません。毎日8時間使う道具を失ったことのほうが、はるかに痛かったのです。

買収と、後継ではない後継

Sidekickの終わり方は、個人開発をやる人間にとって他人事ではありません。

Sidekickは6年続いたスタートアップで、最終的にPerplexityに買収されました。チームはそのままPerplexityの『Comet』というAIブラウザの開発に移っています。

正式な終了日は2025年8月3日。いまmeetsidekick.comを開くと、comet.perplexity.aiに転送されます。

会社としては成功です。買収されて、チームは次の製品を作っている。誰も間違ったことはしていません。

ただ、Cometを実際に入れて使ってみて分かったのは、これはSidekickの後継ではないということでした。

Cometが目指しているのはAIアシスタントを組み込んだブラウザです。私が欲しかった「複数のアカウントを開いたまま切り替えない」という設計思想とは、そもそも狙いが違います。

ワークスペースの考え方が根本から別物でした。

買収された製品のユーザーが引き継がれることは、あまりありません。 引き継がれるのはチームと技術であって、その製品を毎日使っていた人の環境ではないのです。

代わりを、ひと通り試しました

ここから代替探しが始まりました。

私のMacに今も残っているものだけ挙げます。

  • Comet(Perplexity。Sidekickチームの新作)
  • Wavebox(月額。アプリ集約ブラウザの本命)
  • Rambox(Webアプリを1つの窓にまとめる専用ツール)
  • Stack(複数のサービスを並べて表示する)
  • WebCatalog(Space機能でアカウントを分ける)
  • Arc / Vivaldi / Brave / Opera(タブ整理やワークスペース機能を持つブラウザ)

ほかにも入れては消したものがいくつもあります。

結論から言うと、100%しっくり来たものは1つもありませんでした。

惜しいものはありました。Waveboxは機能的にはかなり近いのです。ただし月額課金で、3年使えば$500を超えます。

私がそもそもSidekickを選んだ理由は買い切りだったからです。同じ問題を月額で解決し直すのは、順番が違う気がしました。

ここで多くの人は妥協します。実際、妥協するのが正しい判断であることも多いと思います。

私は妥協せずに、もっとみっともないことをしました。

壊れた製品を、延命させていました

正直に書きます。私はSidekickの終了後も、しばらく使い続けていました。

サーバーが止まっても、多くの機能はオフラインで動いたからです。

ところが、ワークスペースの『名前を変える』『追加する』『削除する』、この3つだけができなくなりました。Sidekickのワークスペース操作が、サーバーとの同期を前提に作られていたためです。

私はChrome DevTools Protocol経由で内部のchrome.storage.localを直接書き換えて、この制限を回避しました。手順は別の記事に全部書いてあります。

サービス終了したSidekickブラウザのワークスペースを変更・追加・削除する方法

そこまでやって使い続けたわけですが、これは要するに壊れた製品を延命させる作業です。

やりながら分かっていました。ここに時間を積み上げても、自分には何も残りません。

同じ手間をかけるなら、自分の資産になるほうへかけるべきでした。

2026年7月17日、作り始めました

私のリポジトリに残っている最初のコミットは、こうなっています。

chore: 初期コミット - Sidekick後継ブラウザ MV3拡張スパイク検証済み

日付は2026年7月17日です。

コミットメッセージに『スパイク検証済み』と書いてあるのは、いきなり作り始めたわけではないからです。

技術的な山は1つだけ、はっきりしていました。Electronの上で、Chromiumの拡張機能を本当に動かせるかどうか。

既存のアプリ集約ツールの多くは、Webページを枠の中に埋め込んで並べるだけの作りです。それだと拡張機能が効きません。パスワード管理も、広告ブロックも、翻訳も使えない環境は、私にとっては実用になりませんでした。

そこだけを先に検証して、通ったのを確認してから初期コミットを切っています。

そこから約7週間で211コミット。

AppleのDeveloper ID署名、公証、Touch ID対応、自動アップデートの配信基盤まで作って、2026年9月現在、spacedeck.appで配布しています。

名前は『SpaceDeck』にしました。Spaceはワークスペース、Deckは束ねるという意味です。

「自分が困っている」は、一次情報として最強です

ここから、読んでくださっている方に使える形に落とします。

個人開発のネタ探しを市場調査から始める人は多いと思います。私も昔はそう教えていました。

ところが実際に手を動かしてみて分かったのは、自分が困っていることには、市場調査では絶対に手に入らない情報が乗っているということです。

  • どこが不便なのか、頭ではなく体で分かっている
  • どの機能が本質で、どれが飾りなのか、迷わず判断できる
  • 競合を「レビューを読んで」ではなく「1年使って」評価できる
  • 作っている最中から、自分が最初のユーザーとして毎日使える

私はSidekickを1年4か月使い、代替を10本以上入れて試しました。

調査費用としては相当なものですが、支払ったのはお金ではなく自分の実生活です。この情報は、どこにも売っていません。

だからSpaceDeckの機能を決めるとき、誰にも聞く必要がありませんでした。 自分が毎日困っていたことを、上から順に潰していけばよかったのです。

つまり『作りたいものが無い』という悩みの多くは、自分の不便を記録していないだけかもしれません。

日々の「これ面倒だな」を消さずに書き留めておくと、そこがそのままネタ帳になります。

ただし、これには落とし穴があります

ここで終われば気持ちのいい話です。

ところが、「自分が困っている」ことと「他人も困っている」ことは、まったく別の話です。

私はこれを、公開してから思い知りました。

作り終えて、署名して、公証を通して、サイトを作って、決済も繋いで、世に出しました。

その結果どうなったか。

1日に来る訪問者は2〜6人。ダウンロードは累計1件です。

作る作業はほぼ終わっているのに、誰も知らない。。

次回は、この数字を全部そのまま出します。どこから何人来ているのか、掲載サイトに載せた翌日に何が起きたのか、計測ツールのどの数字が嘘なのか。

作って終わりではないという話を、逃げずに書いていきます。

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#インディーハッカー#個人開発#SpaceDeck#Sidekick#Macアプリ
平城寿
平城 寿(ひらじょう ひさし)
インディーハッカー。2004年に@SOHOを創業し、20年間1人で運営。
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