モラトリアム〜最も堕落していた過去〜

最終更新日時 2020/10/19 16:10

大学を卒業し、内定も断ってしまった男。

『さて、何をしようか・・・』

大学時代から住み続けていた
築30年以上は経過しているであろう、
福岡の筥松の家賃3万6千円の安アパートに寝転んで、
木の板を張り合わせて作られた天井を眺めながら
男は考えていた。

男3人兄弟で、
3人とも大学に進学していたため、
親としては最もお金がかかる時期。

生活費は日本育英会の奨学金を2つ借りながら、
仕送りを断ってアルバイトで生活費を凌いでいたので、
全財産も数十万円しか無い。

男が会社の内定を辞退した理由は、
『下積み生活が嫌だった』から。

男はなるべく早く、
できれば20代の前半で成功したいと
考えていた。

当時の男にとって、
社会に提供できるスキル・経験は何か?
と考えてみた。

人様からお金をいただけるようなもので、
自分主導でできること。

男は大学時代にそれなりの
アルバイトの数をこなしてきた。

レストランのホール、調理場、
携帯の販売、新聞の広告枠のテレアポ、
イベントの案内係、引っ越しスタッフ、
ナイトクラブの厨房、家庭教師などなど。

その中で最も自分の価値を発揮できそうに
思えたのは、家庭教師の仕事だった。

家庭教師は過去に経験したアルバイトの中でも
最も時給が高かったし、
基本的に既にある知識が活用できるので、
即戦力になれる。

ただ、やはり『労働集約型』の仕事なので、
自分の体と時間を使う必要がある。

さらには、時給が高いとはいっても、
当時の福岡ではせいぜい高くても4,000円止まり。
1ヶ月に働ける時間を考えると、
おのずと収入の上限が見えてくる。

学生時代にニュースキンに出会った時に
夢見た『億万長者』には程遠い。

(一時的にはいいけど、
一生できる仕事ではないな。)

そう、直感で感じた。

となれば次に思いついたのが、
塾の経営だった。

家庭教師と同じように、
受験で培った知識・経験を活かせるので、
即戦力になるだけでなく、
複数の生徒を同時に指導することで、
少しは労働集約型から脱却できる。

しかし、塾を経営するとなると、
まずは場所が必要になる。

商売用の場所を借りるとなると、
一般の住宅とは異なり、
半年分の家賃を保証金として積む必要がある。

男にはそんな元手は無かった。

さらに、当時の福岡では、
超有名な塾が一人勝ち状態。
とてもではないが、
勝てる気がしなかった。

この地合いで勝負しても、
2番手以降で細々と経営することになりそうだ。

ということで、
この選択肢も却下となる。

男は日々、考えた。

が、なかなか良いアイディアが思いつかなかった。。

男は学校に行っているわけでもなく、
会社に行っているわけでもなかったので、
誰からも拘束されているわけではない。

朝起きる時間はどんどん遅くなり、
次第にお昼頃に起きるように。。

2階建ての木造アパート「コーポ金子」の
1階にある103号室。

畳の上に敷いた布団で目覚め、
窓の外の空を眺めながら、
男は思った。

『ああ、このままでは堕ちていく・・・』

男の人生の中で、最もお金が無く、
最も堕落していた時だった。

『成功したい』

という気持ちは強かったものの、

『でも、下積みは嫌だ』

という、あさはかな自己矛盾にも気づけず、
ただただ、時間だけが過ぎていった・・・

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